はじめに:てんかんとは?
正しく知ることが愛犬を守る第一歩
愛犬が突然倒れ、手足をバタつかせたり、意識を失ったりする「てんかん発作」は、飼い主様にとって非常にショックな出来事です。しかし、てんかんは犬において比較的よく見られる神経疾患の一つであり、適切な知識と対策があれば、愛犬の生活の質(QOL)を高く保つことができます。
この記事では、犬のてんかんの根本的な原因から、自宅でできる予防策、そして発作が起きたときの正しい対処法までを、解説します。愛犬の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
犬のてんかん:その原因と分類を徹底解明
犬のてんかんは、脳の神経細胞(ニューロン)の異常な過剰興奮によって引き起こされます。この興奮が一時的に大脳全体または一部に広がることで、発作という形で現れます。
原因によって、てんかんは主に以下の3つに分類されます。
特発性てんかん(真性てんかん)
- 定義: 脳に構造的な異常や病変が見当たらないにも関わらず、てんかん発作が起こるタイプです。
- 特徴: 遺伝的な要因が強く関わっていると考えられており、一般的に生後6ヶ月から6歳くらいの若齢~壮年期の犬に初めて発作が見られることが多いです。
- 好発犬種: 特に遺伝的な関与が指摘されている犬種として、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ボーダー・コリー、ビーグル、ジャーマン・シェパードなどが挙げられます。
- 診断: MRIなどの精密検査で他の原因が除外された上で、「特発性」と診断されます。
構造的てんかん(症候性てんかん)
- 定義: 脳内に具体的な病変や損傷が存在し、それが原因でてんかん発作が引き起こされるタイプです。
- 主な原因:
- 脳腫瘍(しゅよう):特に高齢犬で多く見られます。
- 脳炎・髄膜炎:感染症や自己免疫疾患などによって脳に炎症が起こる場合。
- 脳梗塞・脳出血:血管の異常により脳の一部が損傷する場合。
- 頭部の外傷:事故などによる物理的な損傷。
- 水頭症:脳内に過剰に脳脊髄液がたまる先天的な疾患。
反応性てんかん(二次性てんかん)
- 定義: 脳の異常ではなく、脳以外の身体の病気や中毒などが原因で、結果的にてんかん発作が起こるタイプです。
- 主な原因:
- 重度の低血糖:糖尿病治療中のインスリン過剰投与など。
- 肝不全(肝性脳症):肝臓の機能が低下し、本来解毒されるべきアンモニアなどの毒素が脳に影響を与える。
- 腎不全:腎臓の機能低下による尿毒素の蓄積。
- 中毒:殺虫剤、農薬、特定の植物(例:ソテツ)、人間用の医薬品などの誤食。
- 電解質の異常:重度の低ナトリウム血症など。
| てんかんの分類 | 主な原因 | 好発年齢 | 特徴 |
| 特発性てんかん | 遺伝的要因(脳に構造異常なし) | 6ヶ月〜6歳 | 最も多いタイプ。特定の犬種に多い。 |
| 構造的てんかん | 脳腫瘍、脳炎、外傷、水頭症など | 年齢問わず(腫瘍は高齢に多い) | 脳のMRIなどで病変が確認される。 |
| 反応性てんかん | 低血糖、肝不全、中毒など | 年齢問わず | 脳以外の全身疾患の治療が優先される。 |
自宅でできるてんかんの「予防」と「発作の軽減法」
てんかんの原因の多くは遺伝的要因や脳内の病変によるものであり、完全に発症を予防することは困難です。しかし、発作の頻度や重症度を軽減するための対策、および発作のトリガー(誘因)を避けるための環境づくりは可能です。
日常生活で発作を「予防・軽減」するための対策
🥩 適切な食事管理とサプリメントの活用
- 獣医推奨の食事: 特に反応性てんかんの原因となる肝臓病や腎臓病を持つ犬は、獣医師と相談し、病態に合わせた療法食を与えることが必須です。
- オメガ-3脂肪酸の摂取: EPA・DHAなどのオメガ-3脂肪酸は、脳の炎症を抑え、神経保護作用があることが研究で示唆されています。サプリメントとして積極的に取り入れることで、発作の軽減に役立つ可能性があります。
- 中鎖脂肪酸(MCTオイル)の検討: MCTオイルに含まれる中鎖脂肪酸は、脳の代替エネルギー源となるケトン体の生成を促し、てんかん発作の抑制に効果があるとする研究報告があります。使用の際は必ず獣医師に相談してください。
🧘 ストレスを最小限に抑える環境づくり
ストレスや極度の興奮は、てんかん発作の主要なトリガー(誘因)の一つです。
- 静かで安全な場所の確保: 愛犬が安心できるプライベートな空間(ケージやクレートなど)をリビングの隅などに設置し、いつでも避難できるようにします。
- 規則正しい生活リズム: 食事、散歩、睡眠の時間をできる限り一定にし、生活リズムの乱れによるストレスを避けます。
- 過度な興奮を避ける: 来客や慣れない場所、ドッグランでの過激な遊びなど、急激な興奮を伴う状況をできるだけ避けるようにします。
- 適切な運動と精神的な刺激: ストレスは運動不足でも溜まります。適度な散歩や、知育トイを使った遊びなどで、心身のバランスを保つことが大切です。
💊 獣医師の指示による内服薬の管理
特発性てんかんであれば、基本的に抗てんかん薬による治療が中心となります。
- 絶対的な服薬遵守: 薬は発作を抑えるために血中濃度を一定に保つ必要があります。獣医師に指示された時間と量を厳守し、自己判断で中断したり増減したりすることは絶対に避けてください。
- 副作用の観察: 投薬開始後や量が変わったときは、ふらつき、過度な眠気、食欲・飲水量の変化などの副作用を注意深く観察し、異変があればすぐに獣医師に報告しましょう。
発作発生時の「正しい対処法」と「記録」の重要性
発作が起きたとき、飼い主様の冷静な対応が愛犬の安全を守ります。
🚨 発作発生時の安全確保(最重要)
- 慌てず愛犬の安全を確保: まず、周囲の危険なもの(角のある家具、階段、電源コードなど)を遠ざけ、愛犬がぶつかって怪我をしないようにします。
- 抱きかかえない: 発作中は意識がないため、愛犬は飼い主様を認識できません。噛みつかれる危険や、愛犬が無理な体勢になる危険があるため、発作中に体を固定したり、抱き上げたりするのは絶対に避けましょう。
- 静かに見守る: 呼びかけたり、大声を出したりせず、静かに発作が終わるのを待ちます。発作は通常、数分以内に自然と収まります。
- 呼吸の確認: 発作後、呼吸が安定しているかを確認します。
📝 発作の記録(診断と治療に不可欠)
発作の詳細な情報は、獣医師がてんかんの種類や薬の量を判断する上で極めて重要です。
- 日時と持続時間: 発作が始まった正確な時刻と、何分何秒続いたかを計測します。
- 発作の様子:
- 発作の前触れ(前駆期)はあったか(そわそわ、甘え、隠れるなど)。
- 全身性か、体の一部だけか(例:片側の顔だけがひきつる)。
- 意識はあったか、失っていたか。
- 嘔吐、失禁、排便はあったか。
- 発作後の様子(発作後)はどうか(歩き回る、盲目状態、興奮、ぐったりなど)。
- ビデオ撮影: 可能であれば、発作の様子をスマートフォンで動画撮影することが、獣医師の診断に最も役立ちます。ただし、愛犬に危険が及ばないことを最優先してください。
🏥 病院へ連れていくべきケース(緊急事態)
- 発作が5分以上続く場合(重積発作)
- 短時間で発作を繰り返す場合(群発発作)
- 1日に2回以上の発作があった場合
- 明らかな意識障害が続く場合
これらの場合は、脳の酸素不足による重篤なダメージを避けるため、緊急で病院へ連絡し、指示に従って速やかに受診してください。
まとめと獣医師との連携
犬のてんかんは、適切な治療と日々の管理によって、発作の回数を減らし、愛犬の生活の質を大きく向上させることができる病気です。
- てんかんの多くは治療可能です。 諦めずに獣医師と二人三脚で治療に取り組みましょう。
- 自宅での生活環境の改善(ストレスの軽減、食事管理、中毒物質の排除)は、薬物療法をサポートする重要な要素です。
- 発作の正確な記録は、獣医師が薬の量や種類を調整するための唯一の頼りとなる情報です。
愛犬の小さな変化にも気づき、根気よくケアを続けることが、愛犬との幸せな共同生活を守る鍵となります。
よくある質問(FAQ)
Q1: てんかんは治りますか?
A1: 特発性てんかんの場合、完治は難しいとされていますが、抗てんかん薬によって発作をコントロール(発作の頻度や重症度を減らす)することが可能です。獣医師と相談しながら、愛犬にとって最適なQOLを保つことを目指します。構造的てんかんや反応性てんかんは、原因となっている病気や異常を治療することで、てんかん発作も治まる可能性があります。
Q2: 発作中に舌を飲み込むことはありますか?
A2: 犬は人間とは違い、発作中に舌を飲み込んで窒息することはありません。また、舌を噛むことはありますが、無理に口の中に手を入れて舌を出そうとすると、飼い主様が強く噛まれて怪我をする危険性が非常に高いため、絶対にやめてください。
Q3: 予防接種やフィラリア薬で発作が起こることはありますか?
A3: ごく稀に、予防接種や特定の薬の投与後に神経症状を含む体調不良が見られることがありますが、それらがてんかん発作の直接的な原因となることは非常に稀です。しかし、体調の変化が発作の誘因となる可能性は否定できません。てんかんの既往歴がある場合は、事前に必ず獣医師に伝えて、リスクを最小限にするための相談をしましょう。