近年、犬のヘルニア(椎間板ヘルニア)に悩む飼い主さんが増えてきています。突然の痛みや歩行困難に見舞われる愛犬の姿を見るのは、つらいものですよね。西洋医学では手術や投薬が主な治療法とされていますが、補完療法として注目されているのが「温灸(おんきゅう)」です。
本記事では、温灸が犬のヘルニアにどのように働きかけるのか、そして飼い主さんが自宅で安全にできる温灸ケアの方法を、東洋医学の視点を交えながら解説します。
犬の椎間板ヘルニアは、背骨の間にある椎間板が変性・突出して神経を圧迫することで、痛みや麻痺などの症状が出る疾患です。特にダックスフンドやコーギーなど、胴長短足の犬種に多く見られます。
症状が重い場合、歩行困難や麻痺、手術が必要なケースもあります。
温灸は、もぐさ(ヨモギの葉)を熱源としたお灸を使って、身体の経絡(けいらく)やツボに温熱刺激を与える伝統的な東洋医学の療法です。ツボに温かさを与えることで、血行や気の流れを改善し、痛みや炎症をやわらげる効果があるとされます。
動物にも経絡やツボがあると考えられており、ペット用温灸器具や火を使わないタイプの温灸(温熱パッドや電子温灸器)などを使用すれば、安全にケアが可能です。
ヘルニアによる神経圧迫があると、患部の血流が低下し、炎症や代謝の遅れが生じます。温灸によって周辺の血行が促進されると、筋肉の緊張がやわらぎ、酸素や栄養の巡りが改善されます。
これにより、自然治癒力が引き出され、回復のスピードが高まると考えられます。
温灸のやさしい熱刺激は、副交感神経を優位にしてリラックス効果をもたらすため、痛みやストレスを和らげます。神経痛や慢性の違和感がある犬にも適応でき、疼痛管理の一助として活用できます。
特に高齢犬や慢性疾患のある犬は、自己治癒力や体力が落ちがちです。温灸を継続的に行うことで、全身のめぐりがよくなり、疲れや冷えの緩和、排泄の改善など、体全体の調子を整える相乗効果が期待できます。
※ツボへの温灸は、強い熱さを避け、皮膚を低温やけどから守る工夫が大切です。
ツボ名 | 位置 | 期待される効果 |
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腰陽関(こしようかん) | 肋骨の一番尾側と尻尾の付け根の間 | 腰痛緩和、気の巡りの調整 |
命門(めいもん) | お臍の裏側 | 腎機能を高め、活力アップ |
委中(いちゅう) | 後ろ脚の膝裏中央 | 腰の血流改善、足の麻痺対策 |
足三里(あしさんり) | 膝の下、脛骨の外側 | 消化促進、免疫力の強化 |
腎愈(じんゆ) | 最後肋骨と背骨の交差からやや外側 | 保温、足腰の強化 |
温灸は、ヘルニアそのものを「治す」ものではありません。しかし、回復を助け、生活の質(QOL)を高める力強い味方です。特に手術後のリハビリ中のケアや、慢性的な違和感の緩和として、多くの症例で活用されています。
また、温灸だけに頼るのではなく、動物病院の治療や投薬と併用することで、より効果的に愛犬をサポートすることができます。
ヘルニアを患った犬にとって、「いたわり」と「めぐり」のケアはとても大切です。温灸は、体にやさしい熱で血流を改善し、神経や筋肉のバランスを整えてくれる頼もしい存在です。
飼い主さんの手から伝わる温もりは、愛犬の心にも体にも安心感をもたらすでしょう。大切なのは、無理をせず、楽しみながら継続すること。ぜひ、日々のケアに温灸を取り入れて、愛犬の快適な暮らしをサポートしてあげてくださいね。