夏になると食卓に登場する「茗荷」。
冷奴やそうめん、冷しゃぶなどに添えると、独特の爽やかな香りが食欲をそそります。
薬膳の考え方でも、茗荷は香りを生かして気の巡りを助け、食欲が落ちやすい暑い季節などに取り入れられてきた食材です。
では、
「人の身体にいいなら、犬にも少しあげてもいいのでは?」
と思いませんか?
実はここに、犬の養生を考えるうえでとても大切なポイントがあります。
人にとって身体によい食材が、犬にも同じように身体によいとは限りません。
今回は「茗荷」を例に、人と犬の食材の違いについて考えてみましょう。
茗荷の学名は Zingiber mioga。
ショウガ科ショウガ属の植物で、私たちが普段食べている部分は主に花蕾です。
名前や見た目から「ネギの仲間?」と思われることもありますが、長ねぎ・玉ねぎ・ニラなどとは植物分類上まったく別の仲間です。
そのため、
「薬味だからネギ類と同じように犬に中毒を起こす」
という説明は正確ではありません。
茗荷の特徴といえば、なんといってもあの独特の香りと辛味。
薬膳では、こうした「香り」も食材の大切な働きのひとつとして考えます。
暑さなどで食欲が落ちたとき、香りのある食材を少量取り入れることで食欲を刺激したり、気分をすっきりさせたり。
「夏になると、そうめんに茗荷が欲しくなる」
というのも、理にかなった食べ方といえるでしょう。
現代の食品成分研究でも、茗荷からはさまざまな揮発性成分やフラボノイドなどが確認されています。
特徴的な成分のひとつが「miogadial(ミョウガジアール)」と呼ばれる成分で、茗荷特有の辛味に関係する物質として研究されています。
ここが今回、一番お伝えしたいところです。
現時点では、茗荷は玉ねぎや長ねぎのように、
「犬に明確な中毒を起こすことが知られている食材」
とはいえません。
だからといって、
「犬が食べても安全な食材」
とも言い切れません。
なぜなら、犬が茗荷を食べた場合について、安全な摂取量や継続摂取による影響、犬における有効性などを示す十分な研究がほとんどないからです。
つまり、
「危険だと証明されていない」ことと「安全だと確認されている」ことは別。
ここはとても大切です。
犬の養生を考えていると、
「この食材は身体を冷ますから」
「気を巡らせるから」
「血を補うから」
など、人の薬膳で使われる食材を犬にも使いたくなることがあります。
もちろん、人と犬の両方に利用できる食材はたくさんあります。
でも、人と犬では身体の大きさだけでなく、消化・吸収・代謝の仕組みに違いがあります。
だから私は、
人の薬膳の効能だけを理由に、犬の食事へそのまま取り入れることはおすすめしません。
まず、
「犬が食べても問題のない食材なのか」
を確認する。
そのうえで、体質・年齢・体調・食べる量などを考える。
これが犬の養生では大切だと思っています。
茗荷については、
・犬に対する明確な中毒食材とは確認されていない
・一方で犬における安全量のデータが乏しい
・犬での薬膳的な有効性も確立されていない
・特徴的な芳香・辛味成分を含む
という点を考えると、
犬の養生食材として積極的に取り入れる必要はない
というのが現時点でのわたしの考えです。
特にシニア犬や胃腸が敏感な犬なら、「人に身体によさそうだから」という理由だけで、あえて未知の食材を追加する必要はありません。
同じ目的で使える、もっと犬に取り入れやすい食材を選べばいいのです。
ここでも必要以上に怖がらないことが大切です。
茗荷は、玉ねぎ・長ねぎなどのような「少量でも中毒を警戒する代表的食材」と同じ扱いではありません。
少量を偶然口にしたからといって、直ちに中毒が起こるとする根拠は確認されていません。
ただし、たくさん食べた場合や、嘔吐・下痢・元気消失など普段と違う症状が現れた場合は、自己判断せず動物病院へ相談してください。
わたしはここが、犬の薬膳・養生ではとても重要だと思っています。
「毒ではない」
「少しくらい食べても大丈夫そう」
それだけで、養生食材として採用する必要はありません。
養生として犬に食材を選ぶなら、
安全性が確認でき、その犬にとって取り入れるメリットがあり、適切な量を判断できるものを選ぶ。
茗荷は、人にとっては夏らしく魅力的な薬味。
でも犬の場合は、
「明確な毒ではないけれど、積極的に与える根拠もないので使わない」
という選択でいいでしょう。
人間にとって身体によいものが、犬にもよいとは限りません。
反対に「犬にはダメ」とよく言われているけれど、
「なぜダメなの?」
まで知っている食材は意外と少ないものです。
このシリーズでは、
人ではどんな食材なのか。
犬では何が問題になるのか。
本当にNGなのか。
どの程度の科学的根拠があるのか。
ひとつずつ掘り下げていきます。
「〇〇は犬にいいらしい」
そんな情報を見たときに、すぐに与えるのではなく、
“それ、人の話? 犬の話?”
と一度考えてみる。
それも、大切な愛犬の養生のひとつです。
※本記事は一般的な食事・養生に関する情報提供を目的としたもので、獣医師による診断・治療に代わるものではありません。持病がある犬、療法食を利用している犬、投薬中の犬については、食材を追加する前にかかりつけの獣医師へご相談ください。