「犬にぶどうを与えてはいけない」
犬と暮らしている方なら、一度は聞いたことがあると思います。
チョコレートや玉ねぎと並んで、犬に与えてはいけない食べ物として知られるぶどう。でも、どうして危険なのかまで知っている方は、意外と少ないのではないでしょうか。
人にとっては、秋の実りを代表する果物のひとつです。
薬膳では、ぶどうは体に必要な潤いを補い、疲れや乾燥が気になる季節に取り入れられる食材とされています。
ところが、犬にとっては急性腎障害を引き起こす可能性があるため、与えてはいけない食材です。
同じ食べ物でも、人と犬では体内での処理の仕方が違います。
今回は「ぶどうはダメ」という結論だけではなく、「なぜダメなのか」を少し詳しく見ていきましょう。
ぶどうによる犬の中毒については、長い間、原因となる物質がはっきり分かっていませんでした。
農薬、カビ、種に含まれる成分など、さまざまな可能性が考えられてきましたが、現在、有力な原因物質として注目されているのが「酒石酸(しゅせきさん)」です。
酒石酸は、ぶどうなどに含まれる天然の有機酸。ぶどうのさわやかな酸味にも関わる成分です。
人は通常、この酒石酸を体内で処理できます。しかし、犬は有機酸を排出する仕組みが人とは異なり、酒石酸をうまく排出できず、腎臓の尿細管に蓄積して障害を起こす可能性があると考えられています。
ただし、現時点では酒石酸が原因物質として「有力視されている」段階です。すべての仕組みが完全に解明されたわけではありません。
「原因は酒石酸だと確定している」と言い切るのではなく、最新の知見では最も有力な候補と考えられている、と理解するのが適切です。
ぶどう中毒の難しいところは、食べた量と症状の重さが単純に比例しないことです。
酒石酸の含有量は、ぶどうの品種、産地、熟し方、一粒ごとの状態などによって異なります。さらに、犬によっても感受性に差があります。
同じ量を食べても何ともない犬がいる一方、少量で体調を崩す犬もいます。
過去に食べて何ともなかったとしても、次も大丈夫とは限りません。
そのため、
「大型犬だから一粒くらいなら平気」
「種なしぶどうなら大丈夫」
「皮をむけば食べられる」
という判断はできません。
安全だと確認された量がない以上、少量でも与えないことが基本です。
ぶどう中毒について、「種が毒なのでは?」「皮をむけばいいのでは?」と思われることがあります。
しかし、問題となる可能性がある酒石酸は、ぶどうの果肉にも含まれています。
したがって、次のようなものも避ける必要があります。
・種なしぶどう
・皮をむいたぶどう
・レーズン、干しぶどう
・ぶどうジュース
・レーズンパン
・ぶどうやレーズンを使った菓子、シリアル、グラノーラ
・ぶどうの搾りかすを含む食品
特にレーズンは、水分が抜けて成分が凝縮されています。小さくて犬がまとめて食べやすいこともあり、注意が必要です。
つまり、ぶどうが危険なのは「糖分が多いから」「農薬がついているから」「種に毒があるから」という単純な理由ではありません。
無農薬やオーガニックのぶどうでも、犬にとって安全になるわけではないのです。
ぶどうやレーズンを食べた犬では、まず数時間以内に次のような症状が現れることがあります。
・嘔吐
・下痢
・食欲低下
・元気がない
・腹部の痛み
・震え
・水をたくさん飲む
その後、24~72時間ほどで腎機能が悪化し、尿の量が減る、あるいは尿が出なくなることがあります。
しかし、すべての犬がすぐに症状を見せるとは限りません。
食べた直後に元気だからといって、自宅で様子を見るのは危険です。腎臓の障害が進んでからでは、治療が難しくなる場合があります。
犬がぶどうやレーズンを食べた可能性がある場合は、症状がなくても、できるだけ早く動物病院へ連絡してください。
その際は、次の情報を伝えられるようにしておきましょう。
・犬の体重
・食べたもの
・おおよその量
・食べた時刻
・現在の様子
・商品であればパッケージや原材料表示
自宅で塩やオキシドールなどを使って吐かせようとするのは、誤嚥や食道・胃の損傷、塩中毒など別の危険を招くことがあります。自己判断で吐かせず、必ず獣医師の指示を受けてください。
人にとって、ぶどうは季節の恵みであり、薬膳にも取り入れられる食材です。
しかし、人と犬では、消化や代謝、体外へ排出する仕組みが同じではありません。
「自然のものだから安心」
「人の体に良いから、犬にも少しなら良い」
とは限らないのです。
大切なのは、「○○はダメ」という食材名だけを覚えることではありません。
なぜ危険なのか、どのような形でも避けるべきなのか、食べてしまったらどう行動するのかまで知っておくこと。
正しく知ることが、愛犬を守ることにつながります。
※本記事は、犬へのぶどう給与を推奨するものではありません。誤食した場合は、量にかかわらず、速やかに動物病院へ相談してください。