秋になると、店先に並ぶ栗に目が留まります。ほくほくとした食感と自然な甘みは、犬たちにも魅力的かもしれません。
薬膳では、栗は胃腸をいたわり、元気を養う食材として親しまれてきました。では、犬にも秋の養生おやつとしてあげられるのでしょうか。
答えは、食用の栗なら、調理と量に気をつけて楽しめます。ただし、今回のお話にはもう一つ大切な注意点があります。道に落ちている「栗に似た実」は、食用の栗とは限りません。
薬膳では、栗は「脾胃(ひい)」をいたわり、「腎(じん)」を補う食材と捉えられます。
「脾胃」は食べたものから元気をつくる働きに関わる考え方。「腎」は成長や加齢、体の土台となる力なども含む、薬膳独自の広い概念です。ここでいう「腎を補う」は、腎臓病を治す、腎臓の検査値を改善するという意味ではありません。
季節のものを、おいしく、無理のない量でいただく。栗は、そんな秋の食養生に取り入れやすい食材です。
わたしたちが食べる栗は、犬にとって通常、避けなければならない食材ではありません。ただし、人が食べるときと同じように、一粒をそのまま渡すのはおすすめできません。
犬にあげるなら、次のように準備しましょう。
特に小型犬やシニア犬は、丸い栗をそのまま口に入れると喉に詰まらせる心配があります。ほくほくに加熱した栗を、食べやすい大きさにしてあげてください。
栗は甘みがあって食べやすい一方、でんぷんを含み、食べた分のエネルギーもあります。文部科学省の食品成分データベースでは、茹でた日本栗の可食部は100g当たり152kcalです。
犬のおやつは、栗だけでなく、その日に食べるほかのおやつやトッピングも合わせて考えます。主食をしっかり食べられるよう、栗は「季節の味を少し楽しむ」くらいがちょうどよいでしょう。
一度にたくさん食べると、お腹が緩くなったり、反対に便が出にくくなったりする子もいます。初めてなら、まずはほんのひとかけらから。食欲や便の様子を見ながら、その子に合うかを判断します。
栗を使ったお菓子にも注意が必要です。甘露煮やマロンクリーム、ケーキなどは砂糖や乳製品などが加わっていることがあります。犬には、味付けしていない栗の実を選びましょう。
糖尿病などで食事量や糖質の管理が必要な子は、栗を加える前に獣医師に相談してください。
腎臓病などで療法食を食べている子も同じです。薬膳で栗を「腎を補う」と表現するからといって、腎臓病の子に積極的に食べさせる理由にはなりません。療法食は、その子に必要な栄養バランスを考えて作られています。おやつやトッピングを足す場合は、その方針を優先しましょう。
マメのようなハイシニア犬なら、まずはいつもの食事を無理なく食べられることが大切。栗を楽しむとしても、食事を置き換えるのではなく、体調を見ながらほんの少し、という考え方です。
ここが今回、ぜひ知っておいてほしいところです。
食用の栗と、トチノキの実は別の植物です。トチノキの仲間の実は、つやのある茶色い見た目が栗に似ています。海外の動物中毒情報では、トチノキ属の植物は犬に有毒とされ、食べた場合には嘔吐や下痢、ふらつきなどが報告されています。
「栗みたいだから大丈夫」と、落ちている実を拾って食べさせないこと。犬が口にしてしまったときは、実や周囲の葉・殻を撮影し、可能なら現物も持って、早めに動物病院へ相談してください。見た目だけで判別しようとしなくて大丈夫です。
栗は、人には秋の食養生として親しまれ、犬にも調理した食用の実を少し楽しんでもらえる食材です。
でも、薬膳でよいとされる食材が、すべての犬に同じようによいわけではありません。年齢、体格、いつもの食事、持病、食べた後のお腹の様子まで見て、その子に合う形を選ぶことが大切です。
柔らかく茹でた栗をひとかけら。「秋だね」と一緒に楽しむくらいが、犬との季節の味わい方にはちょうどよいのかもしれません。
※食材による養生は、病気の診断や治療に代わるものではありません。