秋になると、美しい黄色に染まるイチョウ並木。
犬とのお散歩にも気持ちのいい季節です。
わたしの自宅近くにある昭和記念公園にも有名なイチョウ並木があり、毎年たくさんの人が訪れます。
でもこの季節、犬の飼い主さんから時々聞かれるのが、
「銀杏がたくさん落ちているけど、犬が食べても大丈夫?」
という質問です。
独特の強い匂いがする銀杏。
人にとっては秋の味覚でもあります。
では、犬にとってはどうなのでしょう。
銀杏は日本や中国などで古くから食べられてきました。
薬膳の考え方では、肺を潤し、咳や痰などに用いられてきた食材でもあります。
茶碗蒸しに入っている銀杏を楽しみにしている方もいるのではないでしょうか。
ただし、ここで大切なのは、
「薬膳に使われる=たくさん食べても安全」ではない
ということ。
実は銀杏は、人でも食べ過ぎによる中毒が知られている食材なのです。
銀杏の種子には、
4′-O-メチルピリドキシン(MPN)
という成分が含まれています。
「ギンコトキシン」とも呼ばれる物質です。
これはビタミンB6とよく似た構造を持ち、体内でビタミンB6の正常な働きを妨げます。
ビタミンB6は、神経の興奮を抑えるGABAという神経伝達物質を作る過程にも関わっています。
そのため銀杏を大量に摂取すると、嘔吐やけいれんなどの神経症状を起こすことがあります。
実際、人では銀杏中毒によるけいれんの症例が報告されています。
では、
「茶碗蒸しの銀杏は加熱しているから大丈夫なのでは?」
と思うかもしれません。
ところが、銀杏の毒性成分については、加熱したから完全になくなるとはいえません。
加熱した銀杏についても毒性成分が残ることが研究されています。
ですから犬に対して、
「生じゃなければ大丈夫」
「一粒くらいなら健康にいいかも」
と、あえて与える必要はありません。
ここはとても大切なところです。
銀杏中毒については人での報告や研究が多く、動物を使った毒性研究もあります。
一方、
「犬なら体重1kgあたり何個まで安全」
というような、犬で確立された安全量を示す十分なデータはありません。
だから、
「○個までなら大丈夫」
とは言いません。
特に小型犬では、人間にとっての一粒でも体重当たりに換算すれば決して同じ量ではありません。
わざわざリスクのあるものを「少量だから」と食べさせる必要はないでしょう。
家庭で銀杏を犬に与えることより、むしろ気をつけたいのはこちらです。
秋のイチョウ並木には、たくさんの銀杏が落ちています。
そして犬は、
「これは人間が食べる銀杏だから危ない」
なんて判断してくれません。
匂いを嗅いで、そのまま口にしてしまう可能性があります。
特に銀杏が大量に落ちている場所では、
・地面の匂いを嗅ぎ続けているときは少し注意する
・拾い食いの習慣がある子はリードを短めにする
・銀杏が密集して落ちている場所を避ける
・食べた可能性があれば、何をどのくらい食べたか確認する
といった対策をしておくと安心です。
もし食べてしまった場合、とくに摂取量がわからない場合や、嘔吐、ふらつき、震え、けいれんなど普段と違う様子がみられる場合は、自己判断で様子を見続けず、動物病院へ相談してください。
このシリーズで繰り返しお伝えしているのは、ここです。
薬膳というと、
「この食材にはこんな効能があります」
という部分だけが注目されがちです。
でも本来大切なのは、
誰が、どんな状態のときに、どのように取り入れるのか。
人と犬では体の仕組みも、体重も、食べ物を処理する能力も違います。
人にとって薬膳として利用される食材だからといって、犬にも同じように使えるわけではありません。
銀杏並木は、犬と一緒に秋を感じられる素敵な場所。
だからこそ、
「食べさせない。でも、一緒に秋を楽しむ。」
それで十分なのだと思います。
美しい黄色の絨毯を楽しみながら、足元の銀杏にはちょっとだけ注意。
そんな知識も、犬との暮らしの「養生」のひとつです。